映画は人助けをしない

最新映画について書くことはあまりありません。基本的に古い映画について書いています。内容は古さを感じないものにしたいです。

フリッツ・ラングの同系統作品『飾窓の女』と『スカーレット・ストリート』の評価の差

フィルム・ノワールの監督としても知られるフリッツ・ラング

1944年に公開された『飾窓の女』は典型的なフィルム・ノワール作品とされている。暗い画面、ファム・ファタール、退廃的な雰囲気…。

映画評論家の梅本洋一は、こんな風にフィルム・ノワールを表現する。

フィルム・ノワール>と呼ばれる映画は、そうした明るい夜を背景にしている。明るい夜とは、実は、明るさと暗さが交錯する場所だ。光線は、ある空間を決まった形で照らし出しはするけれども、光と光の間に残された場所には、決まって都市の光とは別の、あの夜の暗闇がある。車も人々も、光の下へと集まりはするが、あえてその原初の暗闇の中にとどまろうという男や女もいる。<フィルム・ノワール>は、そうした暗闇の中の男女の映画である。

ミステリマガジン  1988年2月号

 都市の一部に取り残された暗闇の中で展開される犯罪映画がフィルム・ノワールだ。

飾窓の女』は世界中で高く評価され、キャリアが低迷していたという評価が一般的になっていたラング健在をしらしめる一撃となった。

翌年、ほとんど同じ内容の映画『スカーレット・ストリート』が公開される。詳細は以下参照。

eachs.hatenablog.com

飾窓の女』の3人の主要登場人物がほぼ同じ役どころで登場する『スカーレット・ストリート』は「二番煎じ」というレッテルを貼られ、あまり評価されなかったらしい。公開から2週間で上映が禁止されるなど、恵まれない作品だった。

当時の日本でもまったく注目されず、ラングを語ることが多かった植草甚一や外村完二などの映画評論家も評価しなかった。その理由は「二番煎じ」に尽きる。

 

しかし、現在ではこの評価は逆転しているようなのだ。

IMDbでは、『飾窓の女』が7.8点・9,998reviews、『スカーレット・ストリート』が8.0点・10,436reviews。

Rotten Tomatoesでは、『飾窓の女』が95%・19reviews、『スカーレット・ストリート』が100%・13reviews。

ほんの僅かな差だが、公開当時の評価とは大きな違いが生じている。分母は少ないが、今では『スカーレット・ストリート』のほうが若干高い評価を得ているといっていいだろう。

Rotten Tomatoesが紹介している批評からはっきりとした理由をつかむことはできなかったが、おそらく『スカーレット・ストリート』と『飾窓の女』を完全に別の作品として受けとめ、「二番煎じ」という先入観を排除した結果なのだろうと思う。ドイツ時代のラングを彷彿とさせる陰鬱な演出で語られるこの映画は彼の輝かしいフィルモグラフィの中でも一際輝いているのだ。

「先入観」によって評価が遅れた映画というと、例えば『ファイト・クラブ』(1999)あたりになるのだろうか。最も著名な映画評論家ロバート・イーバートが「マッチョポルノ」と批判したように、公開当初は本質を理解されず、「暴力的」というレッテルを貼られて大失敗した。今では映画史に残る傑作として世界中で大人気だ。

 

こういう類の映画が正当な評価を受けることは喜ばしいことだと思う。

 

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 とはいえ、『飾窓の女』が傑作であることもれっきとした事実である。