映画は人助けをしない

最新映画について書くことはあまりありません。基本的に古い映画について書いています。内容は古さを感じないものにしたいです。

新宿武蔵野館で中田秀夫監督作『ホワイトリリー』を観ました

2016年12月に始動した日活ロマンポルノのリブートプロジェクト。

先駆けの一作『ジムノペディに乱れる』(行定勲監督)は大傑作だったと思う。必至の現実逃避を続けるもついに避けられない現実に直面してしまった(パンドラの箱を開いた)板尾創路の恐怖に怯える表情のストップモーションは刺激的だった。世代的にロマンポルノを映画館で観るのは初めてだったので、なんとも言えない背徳感でゾワゾワしながらの鑑賞だったことを機能のことのように思い出す。

 

で、レズビアン映画『ホワイトリリー』である。


『ホワイトリリー』予告編

陶芸家志望のはるか(飛鳥凛)は、閑静な住宅街で陶芸教室を開く有名陶芸家・登紀子(山口香緖里)の住み込み弟子。師匠の身の回りの世話をするだけでなく、2人は特別な関係にあった。ところがある日、登紀子が有名陶芸家の息子である悟(町井祥真)を新弟子として迎え入れ、強引に住み込ませた挙句、関係を強要するようになった事から、3人の関係は暴走していく。

MovieWalkerからの引用 役者名は筆者による

監督・中田秀夫×脚本・三宅隆太!Jホラーの中心人物がタッグを組んだ…というのがウリ文句らしい。仮面ライダー女優・飛鳥凛を主演に起用した意欲作だったが。

失笑+失笑=辛い

結論から言うと、観ているのが本当に辛かった。観客は三文芝居を延々と観せられる。いわゆる役割語が苦手な私は、山口香緖里が猫なで声で喋る度に苦笑してしまった。彼女が演じる陶芸家・登紀子はある理由で色狂いになってしまった、エロと酒のために生きているような存在なのだが、酒飲みという設定から常に過剰演技をしているのもまた辛い。さらに、彼女に誘惑される悟役の町井祥真は単純に演技が下手くそ。飛鳥凛はとても頑張っていたが、周囲が台無しにしてしまった印象を受けた。

演出も受け入れがたかった。花や羽をメタファーとして使う演出は中田の師匠であるポルノ映画監督・小沼勝譲りらしいが、はっきり言って恥ずかしいよ!リブート仲間の行定勲が監督してずっこけた『真夜中の五分前』は良い映画だったが、人の死を羽ばたく蝶で表現する恥ずかしい演出があった。良い映画だから恥ずかしさはある程度相殺されていたが、ダメな映画の恥ずかし演出はただ恥ずかしいだけだ。エロシーンへ移行する際の計算されたカメラワークはポルノ映画の良いところなのだと思うが、上記の演出には場内から失笑が漏れていた。

演技と演出、2つの失笑ポイントがあるというのは辛い。ツッコミを入れながら観ていたのだが、途中から「早く終わって欲しい、長い」と思ってしまった。

陶芸家という設定を活かしきれていない

そもそも、なぜ美しい女性同士の倒錯した愛を描くのに陶芸家という設定を採用したのか?その答えはところどころに現れていた。要は「指先で濡れた粘土の形を整えるのはエロい」ということだ。ネトネトした水分=体液のエロス。作中最初のエロシーンははるかが師匠のドレスのファスナーを口を使って締めるというものだったし、最初の濡れ場は二人のオーラルセックスだった。これらのシーンは確かにエロかったので、体液エロスの表現には成功していたといえるだろう。

しかし、「指のエロス」がおざなりになっていることは問題だ。色狂いの師匠は悟の長い指を大絶賛。その指を執拗に愛撫するシーンはあるにはあるのだが、悟が指技で師匠を満足させることはない。終盤、師匠がはるかに手マンするシーンでは当然画面に写すことは出来ないので、「視覚的な指のエロス」の魅力は皆無だ。隠すことで意識を集中させる春画的演出はポルノ映画の常識だし…。ネトネトの粘土に指を当てる陶芸ショットが繰り返されるのにも関わらず、それが実現することがないのはいかがなものか。これでは陶芸家という設定が霞んでしまう。単なる体液エロスなら歯医者でもいいじゃないか。拘束プレイできるぞ。

結論

飛鳥凛の演技と冒頭の濡れ場くらいしか賞めるところがない。いくつかあった濡れ場のほとんどは既視感もしくは単純につまらないという理由で興奮しなかったし、演技酷いし、演出恥ずかしいし、散々な映画だった。Jホラーの重鎮がタッグを組んだのだから少しくらいはホラー要素が入っているのだろうと思っていたのだが、山口香緖里の怪演に若干の気味悪さを感じただけだった。リブートプロジェクトの作品は『ジムノペディに乱れる』と本作以外に観ていないので断言はできないが、偉大な取り組みの締めくくりとしては力不足ではないか。

もともと中田の映画が好きではない私は、彼のことをさらに嫌いになってしまった。『リング2』から続く駄作列伝*1に加わるに相応しいと私は思う。

 

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 リングシリーズ、もう終わらせなよ。ハリウッド版新作の評価散々だぞ。

*1:仄暗い水の底から』だけはなぜか嫌いになれないが、特に『リング2』と『L change the WorLd』には殺意を覚えた