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映画は人助けをしない

最新映画について書くことはあまりありません。基本的に古い映画について書いています。内容は古さを感じないものにしたいです。

お蔵入り映画が意外な形で流通してしまった2つのケース

様々な形でお蔵入りしてしまった映画たちは、一生日の目を見ないというわけではないようだ。

沢辺有司の『ワケありな映画』(2012)という本は、46本の「ワケあり映画」を紹介している。『時計じかけのオレンジ』のような古典から『靖国 YASUKUNI』などの物議を醸した映画まで、幅広いラインナップが4章に振り分けられている。

中でも興味深いのは「上映禁止になったワケありな映画」という章で紹介されているマイナーな2本の邦画『スパルタの海』と『暗黒号 黒猫を追え!』である。

西河克己監督作『スパルタの海』(1983)は戸塚ヨットスクールを取り上げた同名のノンフィクションを原作としている。過剰な体罰や死亡事故が世間を騒がせていた頃に、東宝東和が話題性重視で製作したという。

伊東四朗演じる校長・戸塚宏と訓練生の高校2年生・俊平を軸に展開されるこの映画は、著者いわく、

この映画、決してスクールのプロパガンダにはなっていない。生々しい体罰、死亡事故をめぐるエピソードも正面から描き切っている。

暴力、青春、海、風、死、すべてが渾然一体となった傑作である。

本の中で紹介される物語や演出には確かに興味を惹かれた。観てみたいと思った。

しかし、映画は1983年に完成したものの、公開直前に戸塚宏とコーチ15人が警察に連行されてしまい、公開は断念されてしまった。ソフト化もされず、封印されてしまったのだ。

ところが、2005年に「戸塚ヨットスクールを支援する会」が東宝東和から著作権を買い取り、ビデオとDVDの販売を始めたというのである。お蔵入りされた傑作は皮肉な形で日の目を見ることとなった。まさかのプロパガンダ利用だ。

スパルタの海 [DVD]

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井上梅次・岩清水昌弘監督作『暗黒号 黒猫を追え!』(1987)はスパイ映画である。北方共和国から送られたブラックキャットというコードネームのスパイを追う警視が主人公で、ニコラス・ウィンディング・レフン『ドライヴ』(2012)のリアリティに通じるものがある、といえば分かる人には分かるだろう。スパイも運び屋も実体は地味な仕事だ。著者は「エンタテインメントとして十分に興行収入を期待できたはず」と評価している。

封印された理由は、この映画がプロパガンダ映画だったということにある。スパイ防止法制定を目指す団体が支援・監修しており、その運営母体が統一教会とのつながりが深かったそうだ。制作費も統一教会から出ていたとのことで、当然のことながらスパイ防止法反対運動に押されてお蔵入りとなった。

現在はスパイ防止法制定促進国民会議がDVDを2000円で販売している。一応支援金という名目になるそうなので、ちょっと敬遠してしまうが……。まあ、それほど高くもないし、ね。

 

規模こそ違えど、『暗黒号 黒猫を追え!』に似ているな、と思ったのは伝説のカルト映画『インチョン!』(1982)だ。監督に007シリーズの1〜3作目を監督したテレンス・ヤングを招き、ローレンス・オリヴィエが主演で三船敏郎も出演する超豪華な戦争映画。製作総指揮は統一教会創立者・文鮮明である。

約46,000,000ドルもの制作費をつぎ込んだにも関わらず興行も批評も大コケし、もちろんソフト化されなかった。現在は統一教会所有のCATVなどで放映されている(ソースはwikipedia)らしい。詳しくは

を参照されたし。

 

お蔵入りされた映画が流通するのはいいことだと思うが、結局プロパガンダに利用されてしまっている『スパルタの海』はあまりにもかわいそうだ。『インチョン!』はともかく、他の2作は都内映画館でまれに上映されるそうなので、怪しい団体に直接金を払いたくない人は上映を待つべきだろう。著者の紹介がうまいのもあるが、とても魅力的な映画のようだし。特に『スパルタの海』は忘れないうちに観たい。

ワケありな映画

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『ワケありな映画』も面白い本なので、読んでみてほしい。読めば映画が観たくなる、名著だと思う。